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構造物の振動を計る「振動計」の仕組みと目的・測定の重要性

振動は物体がある一つの点を中心に前後左右への動きを繰り返す運動のことで、一定時間同じ動きを繰り返す「周期振動」と、揺れの大きさや周期が不規則で予測できないものを「不規則振動」と呼び分けています。

振動計は、このような物体の振動レベルを測定するための計測機器です。地震波を感知・測定する地震計とは異なりますが、揺れを検出して対象物の振動レベルを数値で調べることができます。

今回は振動計の仕組みと使用する目的、振動を測定する重要性を紹介します。測定時の注意点も取り上げていますので、振動計選びの参考にしてください。

振動計の仕組み

振動計(振動センサー)は、設備機器・構造物・地面といったさまざまな場所の揺れを数値化する機器です。

「接触式」と呼ばれる周波数変化型・圧電式・動電式・サーボ式と、「非接触式」に分類される渦電流式・静電容量式・光学式の7種類があり、振動の特性や計測環境に合わせて選びます。
振動計の中には振動を検知する部分(センサー)と、振動を測定する機器が内蔵されています。
圧電式振動計は振動を受けるとその振動力に比例した電荷を生じる「圧電素子」を内蔵し、圧電効果を使ってひずみを計測します。周波数変化型は加速度センサー素子(振動子)を内蔵し、振動の大きさによって振動子の発振周波数の変化をデジタル値に変換する仕組みです。

振動計を使う目的

振動計を使う目的は、「振動による構造物の劣化を分析するため」「構造物自体の振動を測るため」という2つの目的に分けられます。それぞれの目的を詳しく確認していきましょう。

関連記事:コンクリート製品や構造物の検証に欠かせない「非破壊検査」を解説

振動による構造物の劣化を分析するため

振動計は、振動による構造物への影響を調べるために使用されます。

構造物とは道路・トンネル・建物・ダム・港湾設備などの大きなもの、比較的サイズが小さいものでは機械設備・自動車(ボディやエンジン部)も振動計測の対象です。
これらの構造物は、建設や設置当初は堅牢につくられていますが、振動を受け続けるとひび割れなどの劣化を引き起こしやすくなります。劣化を放置していると破損や破壊、設備機器の不具合や誤作動を招くおそれもあります。
微細な揺れであっても長期間さらされ続けると重要な構造部分に影響が出るおそれがあるため、振動計によってどの程度影響を受けているか確認しなければなりません。

構造物自体の振動を測るため

振動計は、構造物から生まれる振動を測るためにも活用されています。
日本は地震が多く、地盤が脆弱な地域も少なくないため、振動に強い構造やデザインを採用する必要があります。しかし、地震やその他の外力とは別に、構造物自体の揺れによって構造や性能が劣化することも考えられます。
構造物の安全性や堅牢性を重視する場合は、開発や設計の段階から振動による影響を考慮しなければなりません。振動計は機械設備の信頼性や耐久性の向上を図るうえでも欠かせない機器なのです。

振動を測定する重要性

振動測定は、機械設備の維持管理・事故の予防・製品の品質向上・生産ロスの削減といった目的に役立てられています。それぞれの重要性についてみていきましょう。

機械や設備を維持・管理する

機械設備自身が激しい振動を発すると、劣化や故障が進みやすく性能振動を受け続けると構造部や駆動部、消耗の激しい部位から劣化しはじめます。
不具合を放置していると故障などのトラブルにつながるため、正常に動作しない部分や老朽化した部分は適切なタイミングで修理・交換しなければなりません。

振動計はそうした劣化の可能性を判断する指標になります。

また、劣化している部位をいち早く察知し、維持管理に利用されています。

不慮の事故発生を防ぐ

振動計は劣化の程度を確認し、事故を防止するために重要な役割を果たしています。機械設備や構造物が振動の影響を受けると、ひび割れや故障といった不具合につながります。
不具合を早期に発見できなければ、設備や構造物を安全に使えなくなる可能性があります。たとえばトンネル内は自動車の走行で常に振動が発生しています。劣化したコンクリートに振動が及ぶとひび割れが発生し、水分が染み込んでさらに劣化が進みます。
この状態を放置していると、壁の剥がれや落下といった安全上の問題のリスクが大きくなるため、定期的に振動を監視し、その影響を考慮しなければなりません。

製品の品質向上を図る

構造物や機械設備はそれぞれの規格や法律に則って製造・建造されなくてはなりません。

一定の品質を確保し、安全性や耐久性を向上させるために温度試験や衝撃試験といった検査が行われ、振動計測(試験)もそのひとつです。
繰り返し振動を与えることでどの程度の振動に耐えられるのか、設備機器はどのタイミングで故障するのかを予測し、不良品の発生を防いだり材料や仕様の変更を加えてさらに安全性を向上させたりといった品質向上に役立てられます。

生産ロスを削減する

振動の計測では、設備機器にかかる振動の影響から故障や不具合を推定し、修理のタイミングや設備の稼働スケジュールを予測できます。
常に一定の品質が要求される製造現場では、機械設備に不具合が起きると材料やエネルギーのロスが発生するため、無駄を省くためにも振動計測が必要です。

振動計の使い方

振動計はメーカーの取扱説明書にしたがって使用し、危険な使い方は避けてください。

測定時は曲面・傾斜・凹凸を避け、フラットかつ緩衝物がない固いところを選びます。温度や湿度が激しくなく、電気や磁気による影響を受けない環境で測定を行います。

振動計は接触式・非接触式それぞれの使い方をチェックし、機器によって測定できる周波数が異なることにも注意が必要です。

振動計を使って測定するときの注意点

振動計で揺れを測定する際は、次の4つのポイントに注意しましょう。

注意点①測定したいものに合わせて機器を選ぶ

振動計ごとに精度や計測に適した対象物は異なります。測定できる揺れの大きさも製品に左右されるので、測定したい対象と揺れがレンジに入っている機器を選びましょう。

振動の大きさが事前に予測できないときは、振動センサーを複数用意して計測するといった工夫が必要になります。また、測定できる周波数も機器によって異なります。

注意点②機器の特性を知っておく

振動計には接触式と非接触式があります。接触式は対象物に接触させなければ振動が計測できないため、対象物に触れられない場合は非接触式を選択します。

接触式はセンサーの大きさによっては振動を打ち消すため、計測対象に対して適切な大きさや重さのものを選んでください。
非接触式は対象に触れる必要はありませんが、振動計と対象物の間の距離が離れすぎていたり機器自身が揺れていたりすると測定結果に誤差が生まれるため注意が必要です。

注意点③複数箇所で測定する

複数の振動源が存在する場合は、1ヶ所の振動計測のみで正確な結果を導くことができません。
複数の振動地点で計測を行い、測定結果を総合的に判断しましょう。

注意点④人体の振動計測に関する規則を知る

振動測定では、構造物や設備機器を使用する人への影響も考慮されます。人体の振動については、以下の規定に準じます。※

  • JIS B 7760:全身振動
  • JIS B 7761:手腕振動
  • ISO 2631:全身振動を評価する国際規格

人体が感じる振動は体に揺れを受けたときの感覚や感じ方であり、構造物が受ける振動とは異なるものとして評価されます。振動計には人体が受ける振動を考慮した感覚補正が加えられているものもあります。

※参考元:環境省「道路交通振動測定マニュアル

振動計の使い方や特性を知って実測に活かす

この記事では、振動計の仕組みや使用する目的について紹介しました。

振動は機械の作動や車両・鉄道の走行といった、あらゆる状況下で発生するものです。自然発生的に起こる地震とは異なる揺れとして、住環境や構造物、設備機器への影響をチェックするために振動計が用いられています。

構造物や設備への影響、将来的な劣化の程度を予測するには、実際にかかる振動を計測する必要があります。振動計の特性や機能を押さえて、実測に適した機器を選びましょう。