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溶接ヒュームとは?有害性法改正に伴う概要をわかりやすく解説

溶接作業で金属を取り扱う際には、「溶接ヒューム」と呼ばれる物質の発生に注意が必要です。

溶接ヒュームは2021年(令和3年)4月1日から新たに特定化学物質として認定されており、事業者は規定にもとづいて濃度を測定し、換気を適切に実施しなければなりません。

この記事では、溶接ヒュームの概要や有害性、法改正の内容について紹介します。基準値や対策方法についても紹介していますので、測定検査や対策の参考にしてください。

溶接ヒュームとは

溶接ヒュームとは、高温によって金属を溶かす溶接作業の際に発生する金属の粒子です。

ヒューム(Fume)とは日本語で煙霧・蒸発気と訳され、化学反応や燃焼の過程で発生する、蒸気の凝縮によって生成された微粒子を指します。

アーク溶接作業では、高温を利用して金属を溶かしていきます。その際に金属が蒸気となって立ちのぼり、空気中で冷やされて金属酸化物の粒子になります。

0.1μm程度の微細な金属酸化物の粒子同士が繋がり、空気の中を浮遊して作業現場に拡散すると、作業員の呼吸にあわせて体内に取り込まれやすくなります。

溶接ヒュームはかつて「粉じん」として対策が義務づけられていましたが、粉じん対策に加えて溶接ヒュームへの対策も新たに必要となりました。

溶接ヒュームそのものが金属の粒子であり、体内に入ると呼吸器に蓄積されて、さまざまな健康被害を引き起こすおそれがあります。溶接ヒュームの有害性についても確認していきましょう。

溶接ヒュームの有害性

溶接ヒュームが有害とされる理由は、ヒュームを吸い込むことによる健康への悪影響が挙げられます。健康被害をもたらすおそれのある影響は以下のとおりです。

【溶接ヒュームの有害性】

  • 肺がん
  • 神経障害
  • 呼吸器の障害
  • じん肺

溶接ヒュームには、特定化学物質に指定された「塩基性酸化マンガン」が含まれています。塩基性酸化マンガンには発がん性があり、神経機能障害呼吸器系障害のおそれがあります。

「じん肺」とは、土ぼこりや粉じんが発生する環境において、それらを多量に吸い込むことで肺の組織が線維化する病気です。

溶接ヒュームには金属の粒子が含まれているため、長期間にわたって肺に取り込むことで、このじん肺を発症するおそれがあります。

また、神経障害にともなう感覚障害や疲労感、不眠といったトラブルが起こる可能性も指摘されているため、健康障害に注意が必要です。

※参考元:独立行政法人労働者健康安全機構「溶接ヒュームの健康障害と その対策

溶接ヒュームに関する法改正

溶接ヒュームに含まれる塩基性酸化マンガンのばく露により、多数の健康被害が報告されたことから、厚生労働省は2021年4月1日に改正労働安全衛生法を施行しました。

規制の対象となる物質について

溶接ヒュームについて、特定化学物質障害予防規則の「特定化学物質(管理第2類物質)」に位置づけられました。

特定化学物質としての規制について

屋内作業場で金属アーク溶接等作業を行う場合は、全体換気装置による換気またはこれと同等以上の措置を実施しなければなりません。

金属アーク溶接等作業に従事する労働者には、防護マスク(防じんマスク)または電動ファンつき呼吸用保護具を使用させることが定められました。

掃除等の実施について

金属アーク溶接等作業に労働者を従事させる際には、作業場の床を水洗などで容易に掃除できる構造のものとして、粉じんの飛散しない方法で毎日1回以上掃除をしなければなりません。

特定化学物質作業主任者の選任について

「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」の修了者から作業主任者を選任し、労働者が対象物の汚染・吸入をしないように作業方法を決定し指揮します。

作業主任者は溶接ヒュームを吸引しないように作業内容を指揮し、全体換気装置・その他の予防措置や保護具の使用状況について、1ヶ月を超えない期間ごとに点検を行います。

特定化学物質健康診断について

溶接ヒュームを扱う作業に常時従事する労働者へは、健康診断を実施します。雇い入れまたは当該業務への配置換えの際、また配置換えの6月以内ごとに1回、1次検診と2次検診を実施します。

その他の措置について

労働者自身への安全衛生教育の実施、対象物に汚染された紙やウエス等の処理、立入禁止表示の設置、休憩室や洗浄設備の設置などが義務づけられました。

※参考元:厚生労働省「令和元年度「化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会報告書」を公表します

溶接ヒュームの対策方法

溶接ヒュームの対策方法は、空間の換気・防護マスクの使用・フィットテスト実施の3点です。それぞれの対策について確認していきましょう。

①空間全体を換気する

空間に飛散・浮遊する溶接ヒュームを減少させるためには、全体換気装置や局所換気装置による換気の実施を徹底しなければなりません

なお、全体換気装置と同等以上の措置としてプッシュプル型換気装置や局所排気装置(囲い式・外付け式)の使用も可能です。

②適切な防護マスクを使用する

金属アーク溶接等作業に従事する際には、溶接ヒュームの濃度を測定し、測定結果がマンガンとして0.05mg/㎡以上等の場合は、換気装置を設置します。

その後、再度溶接ヒュームの濃度を測定し、結果に応じて防護マスク(防じんマスク)や呼吸用保護具を選定し、労働者に使用させます

③定期的にフィットテストを実施する

マスクが顔と十分フィットしているかどうか。これを測定するための機器を「マスクフィッティングテスター」と呼びます。

なお、事業者は選定した呼吸用保護具を労働者が適切に使用できるよう、1年以内ごとに1回の定量的フィットテストにて測定を行うよう義務付けられています。

厚生労働省の規定では、防じんマスクは作業内容や作業環境に応じて、型式検定合格品を使用しなければなりません。

※参考元:厚生労働省金沢労働基準監督署「アーク溶接作業には 防じんマスクが必要です︕

溶接ヒュームの基準値

厚生労働省が規定する基準値は、溶接ヒュームの濃度がマンガンとして0.05mg/㎡以上の場合です。

測定結果が基準値を超えている場合、換気を行って再度計測し、換気の効果の確認し、防護マスクを労働者に装着させなくてはなりません。

溶接ヒュームの測定方法

溶接ヒュームの測定は、実際の作業の中で計測を行う「個人ばく露測定」という方法で行います。

作業者の体に試料採取機器を装着し、通常通りアーク溶接作業を実施して、呼吸域に近い場所の空気を捕集します。作業に従事するすべての時間について、溶接ヒュームの量がほぼ均一と見込まれる作業ごとに2名以上の労働者を対象とします(対象者が1名の場合は2作業日にわたって測定)。

溶接ヒュームの有害性を把握し安全作業を心掛ける

今回は、溶接ヒュームの概要・有害といわれる理由やリスク・改正労働安全衛生法の内容や基準値について紹介しました。

溶接作業を実施する事業者では、労働者が安全に作業できるように、ばく露のリスクを防ぎ環境を整える義務があります。

溶接ヒュームが発生する金属アーク溶接等の作業では、ばく露による健康被害のおそれがあるため、規定や手順にしたがって測定し、作業主任者の専任や防じんマスクの装着が必要になります。溶接作業を実施する場合、溶接ヒュームの測定方法や吸引防止のための義務なども事前に確認が必要です。